相続というと一般的には資産がプラスになる事を連想されると思いますが、実は資産をマイナスにしてしまうケースも実はよくある事をご存知でしょうか。たとえば、地方から上京した土地で家族ができた方などで、お子様が成人される頃には生活拠点が完全に出来上がってしまってますから、長期で故郷に戻らなくなると家屋のお手入れもできなくなります。もし故郷の家に誰も住まわなくなる時がきた際にはその家屋を相続する事になります。相続した空き家には固定資産税が発生します。たとえ住める状態ではない状態の家屋だとしても、です。これが昨今で社会的な問題として話題によく上がる『売れない負動産』による『空き家問題』です。
このように、できれば相続したくないという状況に陥った場合に取れる手段としては『相続放棄』があります。相続放棄とは、相続人が自身の相続を辞退する事で、相続をしないための代表的な手続きの一つです。
相続を諦める手続きは相続放棄以外にもいくつか存在しますが、相続をしない手続きの中でも最も多く実施されているのが相続放棄です。
相続放棄を選ぶ人が増加中
裁判所がとりまとめる司法統計によると、2018年度(平成30年度)の相続放棄件数は約21万5,000件でした。この件数は約14万8,000件だった10年前の約1.5倍と、増加傾向にあります。相続放棄に対する注目が高まっている背景には、地方不動産の相続を回避する都市部在住の相続人が増えているためです。 ※(出典:平成30年度(2018年度)裁判所司法統計年表・家事編)
でも、ちょっと待って下さい。実は、相続放棄にもデメリットや注意しておきたい点があります。相続を回避したいからとすぐに相続放棄をするのは考えもの。その理由を、相続放棄のメリット/デメリットを踏まえながら詳しく解説してまいります。相続放棄をする上での注意点もお伝えしますので、ぜひ一度、お読みくださいね。
相続放棄のメリット
まず相続放棄のメリットとしては、以下の6点が挙げられます。
メリット①マイナスの財産を相続しないことができる
相続放棄のメリットの1つ目としては、マイナスの財産を相続しないことができる点が挙げられます。
前述しましたが、相続放棄をすることによって、借金などの相続を回避することができます。相続放棄は、プラスの財産よりもマイナスの財産を多く相続しそうな場合に大きなメリットがあります。
メリット②自分ひとりで可能
相続放棄はご自身だけで実施できます。相続人全員の合意が必要となる限定承認と違い、手続きする上でご自身だけで容易に実施できるのです。限定承認に比べて、相続放棄の実施件数が多いことの理由の一つだと考えられます。
メリット③遺産分割協議の手間がかからない
相続放棄は、遺産分割協議の手間を避けることができるという点です。
相続放棄をすると、遺産分割協議への参加の必要性が失くなります。遺産分配の方法を決めた遺産分割協議書に署名する必要もありません。相続放棄は、すべての相続財産に対する相続の権利を放棄する手続きのためです。
メリット④生命保険金が受け取れる
相続放棄をしても生命保険の保険金は変わらず受け取れます。相続放棄をした場合でも、被相続人にかけられていた生命保険の保険金は基本的に受け取る事ができます。相続放棄は、すべての相続財産の相続を放棄する手続きですが、相続人(配偶者や子など)を受取人としている生命保険の保険金は相続財産に含まれないためです。
但し、例外的に被相続人本人を受取人とする生命保険の保険金に限っては、相続放棄をすると受け取れません。被相続人本人を受取人としている生命保険は、相続財産にあたるためです。
メリット⑤死亡退職金が受け取れる
相続放棄をしても死亡退職金が受け取れます。
相続放棄をした場合でも、被相続人の死亡退職金は基本的に受け取ることができます。相続放棄は全ての相続財産の相続を放棄する手続きですが、死亡退職金は相続人(配偶者や子など)を受取人としている事が多く、相続財産に含まれないことが一般的です。
メリット⑥形見が受け取り可能
相続放棄は、形見についても受け取り可能です。
相続放棄をした場合でも、原則として、故人(被相続人)の形見はもらうことができます。ここでの形見とは、故人を想い返せるような品(遺品)のことです。但し、市場価値のある財産は形見には含まれません。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 写真・日記
- CD・DVD
- 衣服・カバン
- 指輪・アクセサリー・貴金属
注意すべき点は、高額な指輪や貴金属などを遺品と扱った場合です。遺品に対して市場価値が認められると、形見を受け取る事が相続をしたとみなされます。相続したとみなされた場合、相続放棄できなくなりますからご注意ください。
相続放棄のメリット考察
これまでお伝えしてきたように相続放棄にはいくつものメリットがあります。とくに「マイナスの財産(負の遺産)の相続を拒否できる」という点が大きな特徴です。相続は、預貯金や株式、不動産などのプラスの財産ばかりでなく、借金などのマイナスの財産(負の遺産)も相続になりますから、マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合は、相続しないための一つの方法として相続放棄が役立ちます。
ところで相続放棄にはデメリットがないのでしょうか?
相続放棄のデメリット
次に、相続放棄のデメリットをご紹介します。大別して以下の3点があります。
デメリット①すべての相続財産に対する権利を失う
相続放棄は、全ての相続財産に対する相続の権利を失います。不動産・預貯金・株式といったプラスの財産も相続できなくなります。
プラスの財産とマイナスの財産の両方が残されている場合は、借金があるからといって単純に相続放棄をすると損をしてしまう事もありえます。このような事態を避けるためには、借金だけでなくプラスの財産も含めて考える必要があり、しっかりと相続財産調査を行うのが安心です。
デメリット②遺留分が放棄される
相続放棄をすると、遺留分に対する権利も失います。
遺留分とは、全ての相続財産の内で、相続人が最低限受け取る権利を持つ遺産の取り分の事を指します。相続放棄をしない通常の相続の場合、遺言書などに「全財産を子供Aに相続させる」と記載されていても、妻Bにも遺産の一部を受け取る権利があり、この取り分の事を遺留分と呼びます。相続放棄をすると、この遺留分も受け取れなくなってしまいますので、注意が必要になります。
デメリット③3カ月以内という期限がある
これはデメリットとは少し異なりますが、相続放棄の申請には、相続開始を知った時から3カ月以内という期限があります。相続放棄をする場合には、相続開始を知った時(通常は故人が死亡した日)から3カ月以内に、相続放棄の手続きをしなければなりません。手続きが遅れた理由や事情が家庭裁判所に認められれば、期限を過ぎても例外的に相続放棄ができる場合がありますが、基本的にスピーディに手続きをする事を求められます。
相続放棄のデメリット考察
以上のように、相続放棄にはデメリットもあります。中でも大きなデメリットが「全ての相続財産に対する相続の権利を失う」という点です。前述しましたが、借金の借金などによるのマイナスの財産があるからといって、焦って相続放棄してしまうとプラスの財産に対する権利も失う恐れがあります。
分かりやすくするためにも、次に相続放棄の注意点をまとめてお伝えしていきます。
見過ごせない!相続放棄の注意点
相続放棄の注意点を、以下にまとめました。
ここから順に詳しく解説しています。
注意点①相続人の順位が変更される
相続放棄をすると、相続人の順位が変更されます。
相続放棄をすると、相続放棄をした相続人は初めから相続人ではなかったことになり、別の親族が相続人になりますので注意して下さい。
具体的な例として、仮に配偶者が相続放棄をするとお子様が相続人になります。また、お子様が二人いる場合、どちらかの子が相続放棄をすると別のもう一人の子(兄弟や姉妹)が片方の子の相続財産もすべて相続します。一方で、お子様が一人しかいない場合でお子様が相続放棄をすると、被相続人の父母などが相続人になります。
相続放棄で相続人の順位が変更になると、被相続人の父母など思わぬ人が相続人になってしまい、マイナスの財産などを相続してしまう恐れもあり、注意が必要です。
注意点②原則的に取消し不可
相続放棄をすると、原則として取消しができません。
相続放棄で相続人の順位が変更され、新たに相続人となった祖父母などが「相続したくない」と相談を受けても、もう取消しができません。(祖父母が自身で相続放棄をする事はできます)
また、相続時には知られていなかった高価な相続財産が数年後に発見されて、「相続したい」となっても、認められないのが一般的ですので慎重に決定して下さい。
但し、以下のような場合では例外的に相続放棄の取消しが認められる場合もあります。
- 虚偽の事実にもとづいて行われた相続放棄
- 偽造された書類などにもとづき、本来の意思に反して行われた相続放棄
- 未成年者が法定代理人の同意がないまま行われた相続放棄
- 成年被後見人本人が行われた相続放棄
- 被保佐人が保佐人の同意がないまま行われた相続放棄
どのような場合に取消しが認められるかは難しい判断になりますので、判断に迷った場合は相談窓口や専門家に相談しましょう。
注意点③原則的に再申請不可
相続放棄は、家庭裁判所に受理されなかった場合、原則的として再度の申請(申述)ができなくなります。相続放棄をするには家庭裁判所に申述をする必要がありますが、この申述が常に受理されるとは限りません。そして、受理されなかった場合、2度目の相続放棄の申述ができないので、気をつけましょう。相続放棄のチャンスは一回だけなのです。
但し、例外的に事情や理由が認められる事があれば再申述が認められる場合もあります。また不受理に不服がある場合、即時抗告(高等裁判所に異議を訴えること)などは可能です。
なお、相続放棄は、以下のような場合に、不受理となる可能性があります。
- 書面に不備
- 相続放棄の期限の超過
- すでに相続を承認している場合
- 詐欺や脅迫にもとづく申し立て
- 制限行為能力者による申し立て
注意点④相続財産の処分がNG
相続放棄は、相続財産を一部でも処分すると認められなくなります。相続放棄をした後に相続財産の一部でも処分をすると、相続放棄の効力が失われて単純承認したとみなされる事になります。この点には注意が必要です。
この際の『処分』とは、単なる保管や管理にとどまらず、財産の性質を変更させる行為を指します。具体的には、以下のような行為が「相続財産の処分」に該当します。
- 被相続人の財産などの譲渡
- 賃貸不動産の賃料振込先の変更
- 家屋の取り壊し、財産の損壊など
- 解約や払戻をした後の預貯金の費消
- 形見(故人を思い出させる遺品)以上の価値がある財産の受取や売却
- 被相続人の債権の支払い請求・収受・領得
被相続人が誰かに貸していたお金を「返して」と請求することも、相続財産の処分に該当しますので、注意が必要です。
ただし、以下のような場合には、相続財産の処分に該当しないことがあります。
- 被相続人の財産を被相続人の葬式代に使用
- 被相続人の財産を被相続人の墓石・仏壇の購入に使用
- 被相続人の財産を被相続人の治療費の支払いに使用
- 被相続人の使用していた日用品を処分
- 被相続人の日用品やわずかな金銭を受領
- 遺品の形見分け
どこからどこまでが形見にあたるか、何が処分とみなされるかの判断が難しいところです。判断に迷った場合は、相談窓口や専門家に相談することをオススメします。
注意点⑤相続財産の隠匿がNG
相続放棄は、相続財産を一部でも隠匿すると認められません。相続財産の隠匿とは、相続財産の所在が簡単にわからないようにすることです。相続財産を隠匿した場合、相続放棄の効力が失われて単純承認をしたとみなされますので注意が必要です。
具体的には、以下のような行為が「相続財産の隠匿」に該当します。
- 財産目録にプラスの財産(の一部)を記載しない
- 財産目録にマイナスの財産(の一部)を記載しない
ただ隠匿についても、どこからどこまでが隠匿にあたるかの判断は簡単ではありません。判断に迷った場合は、相談窓口や専門家に相談するのが望ましいでしょう。
注意点⑥代襲相続が発生しない
相続放棄は、代襲相続が発生しません。相続放棄をすると、相続放棄をした本人は「最初から相続の権利がなかったもの」として扱われます。
そのため、被相続人よりも先に相続人本人が亡くなっている場合に発生する代襲相続(=相続人本人の相続の権利が相続人の子供などに受け継がれる事)が生じないため、注意が必要です。具体的には、子が相続放棄しても、子の子(孫)には相続の権利が受け継がれません。
前述したとおり、子どもが二人いる場合、一方の子が相続放棄を実施するともう一人の子供が相続放棄をした片方の子の分まで相続財産を全て相続しますし、子どもが一人しかいない場合は、被相続人の父母などが相続人になります。
注意点⑦家庭裁判所に申請(申述)が必要
相続放棄をするためには、家庭裁判所に申請(申述)をして受理されるという手順が必要です。
他の相続人に口頭や文書で「相続放棄します」と伝えるだけでは、相続放棄をしたことにはなりませんので注意が必要です。
相続放棄を申述する場合には、本人の住民票、戸籍謄本、相続放棄申述書などの書類を家庭裁判所に提出する必要があります。
【重要!】「遺言書の隠匿」で相続が不可能に!覚えておきたい相続欠格
相続放棄の注意点の番外編として、相続欠格についてもお伝えします。相続欠格とは、相続制度を破壊するような重大な不正行為をした場合に、不正行為をした人がもつ相続の権利が剥奪されることです。具体的には、遺言書の偽造や隠匿をした場合などに被相続人のあらゆる財産を相続できなくなります。
相続をしようか迷っていたところ、相続欠格に該当するような行為をしてしまい、相続が出来なくなってしまった、という事は中々ないと思いますが、念の為、知識として頭の片隅に置いておきましょう。
特に相続放棄が認められない理由の一つ「相続財産の隠匿」と似ていますので、混同しないようにしましょう。相続財産を隠匿をした場合、あくまで相続放棄が出来なくなるのであって、相続は可能です。
一方、相続欠格の場合、相続の権利そのものを失います。対象となる被相続人の相続に関していかなる相続も不可能になります。また相続放棄の場合は代襲相続が出来なくなりますが、相続欠格の場合は代襲相続が出来るなどの違いもあります。
遺言書の隠匿の他にも、以下が相続欠格に該当しますので留意しましょう。
相続欠格に該当する場合
- ①故意に被相続人または先順位もしくは同順位の相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために刑に処せられた者(1号)
- ②被相続人の殺害されたことを知って、告発・告訴しなかった者(2号)
- ③詐欺・強迫によって、相続に関する被相続人の遺言の作成・撤回・取消し・変更を妨げた者(3号)
- ④詐欺・強迫によって、被相続人に、相続に関する遺言の作成・撤回・取消し・変更をさせた者(4号)
- ⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者(5号)
最後に、相続放棄を実際に行う前にお読み下さい。
これまで見てきたように、相続放棄には多くの注意点が存在します。たくさんあって覚えるのが大変という方も多いはず。デメリットについても、大きな落とし穴という程ではないものですが、いずれも見過ごせない事ばかり。知らないままに相続放棄をしてしまうと思わぬ負担が増える事にもなりかねません。
最低限、抑えておきたいのは、相続放棄をすると全ての相続財産に対する権利を失ない、遺留分も放棄されるにも関わらず、原則取消し不可という点です。借金などのマイナス財産の相続を避けようとして相続放棄をした後に相続財産が見つかった!となってしまってもちょっと待ったできないのです。
その他にも「相続人の順位が変更される」という点も重要で、借金などのマイナス財産の相続を避けようとして、相続放棄を実施した結果、順位変更で知らない内に他の身内が借金を背負う事になってしまった、となってしまっては困りますよね。相続放棄を行う場合には、ご自身だけで安易に判断せず、周囲へ伝えた上で、しっかりとした下準備や相談が大切ですので、覚えておきましょう。
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実家を相続したものの、自宅があって住むつもりはない。さらにいうと、交通の便も悪いしために売るのも難しい。そのままにしておくと固定資産税が毎年請求されるし、放火や犯罪に巻き込まれる可能性もあるとなると頭が痛い。そんな方は、相続のお悩み総合相談室へお任せください。
この記事の著者
相続のお悩み総合相談室 代表行政書士 彦田純一
相続のお悩み総合相談室を運営する代表行政書士。同サービスでは、相続の様々な問題も定額で丸投げできる安心なプランでサービスを提供中。連絡先が不明な身内の探索から、立ち入りに躊躇してしまう事故物件現場まで、問題なく進行します。